月刊『We learn』(ウィラーン)

月刊『We learn』2001年2月号(No.580)

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特集: 

巻頭言
女性と社会保障/袖井孝子

研究レポート
揺れ動く主婦たち/田中喜美子
「主婦の自己活動」に関する調査から見えてきたもの

学習情報クリップぼ~ど
岡山市男女共同参画大学「さんかくカレッジ」(岡山市男女共同参画社会推進センター)

シネマ女性学
『ガールファイト』
アメリカ映画
強く毅然と美しく‐少女が闘うとき/松本侑壬子

活動情報(1)
自分で考えて、自分で行動する/長岡美代
求められる経済や株式投資を学ぶ場
女性投資家の会

活動情報(2)
朗読劇「樹氷の郷の女たち」に取り組んで/結城冨二子
「こすもすwhy」の活動から

Women’s View
女性の賃金の底上げを/大賀美弥子
改めて思う「男女平等教育」の必要性/佐野育子

このひと
白根良子さん(「とぽす響きの会」主宰)

きょうのキーワード
ADD(注意欠陥障害)

資料情報
男女共同参画影響調査研究会報告書「男女共同参画の視点に立った政策過程の再構築」
/総理府男女共同参画室(内閣府男女共同参画局)


シネマ女性学

松本侑壬子・ジャーナリスト

『ガールファイト』(アメリカ映画/110分/カリン・クサマ監督)

 ボクシングは好きなスポーツである。リング上でスピード感と孤独を極めたストイシズムを背負って闘う男の肉体に美や興奮を託す。ちゃんと闘った選手には惜しみない拍手―ずっとボクシングは男のスポーツ、と思い込んでいた。
 この映画で17歳の少女ダイアナにいきなりノックアウトされた。痛かったけれど、うれしかった。だって、ボクシングは他のスポーツ同様、性別なんてない。あるのは個人差だということに目覚めさせてくれたから。
 ニューヨークの下町の父子家庭。ダイアナは学校では異性の目ばかり気にする女生徒仲間に反発して孤立し、家では働かないくせに説教ばかり垂れる父親にうんざり。とんがった心を抱えて身の置き所がない。ある日、弟が通っているボクシング・ジムをのぞいたことからボクシングの魅力に取りつかれる。男だけのジムでセクハラやいじめを跳ね返しながらめきめきと頭角を現し、自分自身の内なる力の発見と挑戦の喜びを知る。ダイアナの情熱をフラメンコとパンチマシーンの音で表現した音楽がすばらしい。
 心を通じ合える恋人とも出会い、互いに励まし合いながら順調にリーグ戦を勝ち上ったダイアナは、公式戦でフェザー級の対戦相手があろうことか恋人のエイドリアンだと知らされる。前代未聞の恋人対決に絶句するダイアナ…。
 字幕ではダイアナの一人称を「オレ(俺)」と訳してある。(実際、私の女子大の学生の一人もそのように自称するので、私には違和感はない)。ダイアナは恋人とリングで対戦中クリンチしたとき「Iloveyou」とささやくが決して相手に手心は加えず、最後に必殺パンチで倒す。闘いの後、エイドリアンは「俺はお前にノックアウトされたけど、お前は俺をまだ好きか?なぜだ?」と尋ねる。「あんたは本気で闘ってくれた。ほとんどの男は女の私にまともに向き合ってくれないよ」とダイアナ。男も女もない一人のボクサー同士として全力で闘った二人。勝っても負けても相手への気持は変わらない。
 監督はこれが長編デビュー作の日系女性カリン・クサマ。映画祭で来日、ノックアウト場面について「現実に女が男に振るわれる暴力の限度は超えていない。ダイアナは男を罰したくて殴るのではなくリングの外でも常に闘っている。闘いの相手がたまたま男だっただけ」と語った。
 ダイアナ役の17歳の新人ミシェル・ロドリゲスはさらに歯切れがいい。「世の中では女が男にレイプされたりナイフで喉を切られたり殴られたり、映画よりよほどひどい目に遭ってる。たまには力で女が男を倒すことがあってもいいと思う」と。
 現在世界には女性のプロボクサーが多数活躍しており、「男女合わせても抜きん出たボクサーとして尊敬されている」世界チャンピオン、ルシール・レイカー(オランダ)には大いに影響を受けたと同監督。新しい女性像は確かに生まれている。

◆本欄が松本侑壬子著『シネマ女性学』(論創社、2,000円)として再編集、出版されました。

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