月刊 We learn バックナンバー

バックナンバー一覧

2001年8月号(No.586)

  • 巻頭言:平和に生きる/寿岳章子
  • 研究レポート:グローバル化と女性への暴力/松井やより
  • 学習情報クリップぼ〜ど:講座「女性問題企画アドバイザー養成講座」(摂津市立女性センター)
  • シネマ女性学:『百合祭』
    日本映画/浜野佐知監督
    タブーは破られる?老いらくの性愛/松本侑壬子
  • 活動情報(1):女性の人権擁護と自立支援をめざして/廣渡優子
    ―アジア女性センタ
  • 活動情報(2):茶業に関する歌から見えてきたもの/岡本カヨ子
    ―「うじの女性史をつくる会」の活動
  • Women's View:
    タイ国山岳民族の教育支援を通して/近田真知子
    フェア・トレードに取り組んで/荻村しをり
  • このひと:大津恵子さん(女性の家「HELP」ディレクター)
  • きょうのキーワード:ブライトン宣言
  • 資料情報:平成12年度男女共同参画社会の形成の状況に関する年次報告/内閣府

シネマ女性学

タブーは破られる?老いらくの性愛

松本侑壬子・ジャーナリスト

『百合祭』(日本映画/100分/浜野佐知監督)

 浜野佐知監督は世界でもおそらく類例のないピンク映画出身の女性監督である。2年前に昭和の初期の"幻の女性作家"の作品と生涯を描く「尾崎翠を探して―第七官界彷徨」で(裸は一切出てこない)鮮やかな一般映画デビューしてたちまち海外にも多数のファンを獲得するなどユニークな存在である。
 続く2作目であるこの作品では老人の性愛という大胆なテーマに挑む。性愛の映像化自体は同監督にとっては既に300本の実績のある分野であるが、一般映画として特に老人の性愛となると未だタブー視される世界である。しかし、高齢化と自己解放の波の中で生き抜く老人像はもはや優しい嫁に介護される呆け老人ばかりではないのも事実。例えば、この映画の中の老人版"光源氏"と7人の"姫たち"のように。
 73歳の宮野理恵(吉行和子)はじめ高齢女性ばかりが住むレトロな洋館アパートにダンディで陽気な老人三好さん(ミッキー・カーチス)が引っ越してきた。世間からは一括して「おばあさん」としか呼ばれない彼女ら一人一人の個性を認めレディーとして扱う三好さんはたちまち69歳から91歳までのOL(オールド・レディー)たちのハートを捕らえる。これまでのような「男は黙って」型の日本男児の理想像なんてメじゃないわ。あくまでも華麗なレトリックと行き届いた心配りで女心をふんわり優しく包み揺らす三好さんって、なんてすてき!と。
 問題は、理恵をはじめ一人一人が「自分だけが三好さんと…」と思いこんでしまったことだ。相手の求めているものを瞬時に見抜き、寂しい人は慰め、優しい人には甘え、情熱的な人とは激しく燃え…と、相手に合わせてその時をもっとも充実して楽しむすべを知る三好さん。この75歳の究極のプレイボーイ(というかアパートの光源氏というか)をめぐってみんながあっけないほどに浮き足立つ。おしゃれになり、ライバル意識や意地の張り合いや時には互いに出し抜いたり出し抜かれたり、ひっそりと上品だったアパート中の空気がにわかに活性化する。
 主演の2人に加えて原知佐子、中原早苗、正司歌江ら芸達者がそろって、たくまざるユーモアをたたえながらこの禁断のテーマにじりじりと迫っていくのだ。そして彼女らの内側で思いがけずも目覚め再起動し始めたエロスの行方は意外な方向へと展開してゆく。試写会でも随所に爆笑が起こったが、笑いとともに老いたるプレイボーイの厳しい現実をも仮借なく描き、さらには幻滅にもめげず新しい世界へ女同士で果敢に踏み込むヒロインらの生命力賛歌へとつながっていく。
 まさに恋に年齢はなく、性にタブーなし!である。ただし、老人の性愛に関してまだ発展途上中の日本の現状では、この映画を肯定的に楽しめる人は、かなりススんでいるといえるかもしれない。原作は北海道新聞文学賞を受賞したまだ40代の桃谷方子の同名の小説である。

◆上映についての問合せ先:「百合祭」上映委員会((株)旦々舎内)TEL03‐3426‐0820

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