月刊 We learn バックナンバー

バックナンバー一覧

2001年11月号(No.589)

  • 巻頭言:気づかず吸っているジェンダー汚染の空気/出光真子
  • 研究レポート:ふりーせる保育に関する調査研究
    子どもの人権とジェンダーフリー/松戸市役所児童家庭担当部保育課
  • 学習情報クリップぼ〜ど:「お母さんの子育て講座‐母性の子育てからあなたの子育てへ」(千葉市女性センター)
  • シネマ女性学:『GO』
    日本映画/行定勲監督
    国籍なんて意味ないよ/松本侑壬子
  • 活動情報(1):なぜ「女性監督の映画」なのか?/内田ひろ子
    −「女たちの映画祭」開催から『女性監督映画の全貌』発行まで
  • 活動情報(2):音楽療法で拓くコミュニケーション/鷲見通代
    −岐阜県音楽療法士としての活動から
  • Women's View:
    「おや、オヤ?親子・21世紀仕事と子育て両立支援セミナー」に参加して/市川佳永・新海智美
    子育て支援活動から見えてくるもの/中山多枝子
  • このひと:石橋初子さん(造形作家)
  • きょうのキーワード:ファミリー・フレンドリー企業
  • 資料情報:選択的夫婦別氏制度に関する世論調査/内閣府

シネマ女性学

国籍なんて意味ないよ

松本侑壬子・ジャーナリスト

『GO』(日韓合作映画/122分/行定勲監督)

 原作は、金城一紀の直木賞(第123回)受賞作品。原作者金城も行定勲監督も共に1968年生まれの33歳。脚本の宮藤官九郎は31歳。若いエネルギーのほとばしる映画である。それに、なにしろ主人公のコリアン・ジャパニーズの高3男子(窪塚洋介)がこれまたメッチャ魅力的。これほど全存在をかけて暴れ、傷つき、悩み、考え、自分を発見していく若者像を日本映画で見ることはめったにない。これは決して“女性映画”の範ちゅうには入らないが、主人公の「在日」の少年はしきりに「これは僕の恋愛に関する物語だ」とつぶやく。そう、そして見るものは、彼のいじらしくも痛快な恋愛物語を通して、日ごろ苦手な“アイデンティティの問題”にドキリとするほど鋭く直面させられる。
 自己批判にしろ反発にしろ、私などの旧世代がどぎまぎしているうちに、主人公は国境も、民族も、歴史的こだわりもいとも軽やかに飛び越えて、“個”としてののびやかな時代感覚で飛翔しているのだ。
 杉原(窪塚)は日韓混血の在日三世。中学までは民族学校に通っていたが、そこは校内で日本語を話すとビンタを張られるような校風だった。「もっと広い世界を見たい」と高校は意を決して日本の普通高校に入学した。
 しかし、そこでは本人にはあずかり知らぬ民族差別が根を張っていた。抜群の運動神経と4歳から元ボクサーの父親に仕込まれた腕で、杉原の唯一の自己主張はけんかであり、誰にも決して負けなかった。いじめなんかさせなかった。
 しかし、将来の夢などなく、自分が何をしたいのかもわかっていなかった。ただ、民族学校一の秀才、正一とは一番気が合い、彼の冷静で温かな人柄、知的な刺激にいつも影響される杉原だった。日本人の友達はいないが、在日の仲間たちとは杉原の母親(大竹しのぶ)の働く焼肉屋でわいわいとたむろして口角泡を飛ばす杉原。杉原の“裏切り”に口を尖らす友人、反駁する杉原。興奮する少年らを「親のスネかじってる間は韓国も朝鮮も日本も無いの!ガキなんだよ、ガキ!」とスカッと言い放つ母親の存在感。息子への願いや愛情を鉄拳でしか表現できない無口な父親は、たまに口を開いてはもぐもぐと深みのある言葉で息子に人生のヒントを与えるのだ。夫婦げんかさえ杉原には家族のきずなの確認となる。家族の愛情は濃い。
 杉原が恋に落ちる美少女(柴咲コウ=あの「バトル・ロワイヤル」のヒロイン!)は、1度は土壇場で偏見にとらわれた“醜い日本人”の馬脚を現わすが、自分自身の本心と真剣に向き合った後で「その目、私、好きだった。杉原がなに人でもかまわない」と言って戻ってくる。
 「俺は朝鮮人でも日本人でもない、ただの根無し草だ」「僕らは国なんてもったことありません」「国籍なんて意味ないってことだよ」…怒りや屈辱や恨みといったレベルを超えたところから発せられるこれらの言葉には旧世代には吐けない希望の響きがある。「在日」の人々の役を日本人俳優が演じているのも成功だ。映画が時代を先取りしている。

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