キーワード・用語解説

複合差別

社会的な弱者はしばしば複数の差別を同時に経験している。複数の差別が単に蓄積した状態(重層的差別)とは異なり、差別が互いに絡み合い、複雑に入り組んでいる状態を上野千鶴子(東京大学教授)が「複合差別論」で概念化した(『差別と共生の社会学』1996年 pp203-232)。差別の複合は、1985年ナイロビ世界女性会議のころから人権、民族、階層、障害、性による差別の重複が問題視されるようになった。2003年、国連女子差別撤廃委員会(CEDAW)が日本レポート審査最終コメントで、マイノリティ女性(アイヌ・部落・在日朝鮮人・琉球民族・移住労働などの女性たち)の情報が欠如していることを指摘し、教育・雇用・健康・社会福祉・暴力等に関してマイノリティへの複合的な形態の差別と周辺化について懸念を表明して以来、我が国でも喫緊の課題となった。委員会は次のレポートではデータを含む包括的情報を提供するよう求めているが、政府の動きは鈍い。当事者の声を受けてDV防止法改正(2004年)では、障害をもつ女性・非日本人女性に対する配慮規定がわずかに入った。またマイノリティ女性たちは自らの手で実態調査を実施し、一般には認識されにくい自分たちの複合的課題や、日本の女性政策や人権政策から見落とされてきた現実をデータで示した報告書を出すなど、運動を通してコミュニティごとの歴史や社会構造を尊重しつつ連携し始めている。(2007.6)

  • アルファベット検索
  • フリーワード検索
ENGLISH サイトマップ キーワード・用語解説